「サーキュラーエコノミー移行には連携が重要」。サーキュラーエコノミーに携わるものであれば、一度は聞いたことのあるフレーズだ。システム全体を循環化しようとすれば、当然一社では完結できないことを示す。ときには「連携マインド」を醸成するためにこういった合言葉が使われる。しかし、「どんな連携なのか。その連携による社会・環境もしくは自社へのインパクトは」など、連携の高い解像度を持つことが、表層的な「連携や共創」に陥り失敗を防ぐ手立てともなる。

こうした問題意識から、循環経済つなぐラボは、オープンイノベーションの普及や研究・推進事業を展開している一般社団法人日本オープンイノベーション研究会(JOIRA)とサーキュラーエコノミーにおけるオープンイノベーションのあり方を研究している。

JOIRAによる著書『実務者のためのオープンイノベーションガイドブック』(成富 一仁 編著 クロスメディア・パブリッシング )によると、オープンイノベーションとは、「内部および外部のアイデアを組み合わせ、内部および外部の経路を活用して新技術の開発を進めるアプローチ」と定義されている。協働なくして実現できないサーキュラーエコノミーでは、必然的にオープンイノベーションの考え方を採用していくことが強力なドライバーとなる。

今回は共同研究の一環として、オープンイノベーション研究会代表理事の成富一仁さんと循環経済つなぐラボの那須清和による対談を行い、サーキュラーエコノミーを実現するためのオープンイノベーションについて模索した(全6回)。

話者

一般社団法人日本オープンイノベーション研究会 代表理事 成富 一仁 氏

メーカーの技術職、経営支援団体、DXコンサルティングファームを経て、2021年よりeiiconに参画。主に製造業の経営課題解決に資する情報提供や教育プログラムの設計・運営に携わる。アメリカ、中国、ドイツ、イスラエルなど海外の先進事例を継続的に調査し、その知見を国内企業の戦略立案・意思決定に反映。またeiicon参画後は自治体や大手企業のオープンイノベーション企画・実行を一貫して支援してきた。多様な業界・セクターと協働し、本質的な共創を推進してきた経験を基盤に、一般社団法人日本オープンイノベーション研究会を設立し、代表理事に就任。

循環経済つなぐラボ(サークルデザイン株式会社 代表取締役) 那須清和

大学卒業後二社を経て、サーキュラーエコノミーに特化した共創・コンサルティング・リサーチ・研修業務などを行うサークルデザイン株式会社を2020年に設立。2004年に実施したエクアドルでのフィールドワークをきっかけに、環境再生と人間のウェルビーイング向上の同時追求に関心を抱き、後にサーキュラーエコノミーを追求・推進するようになる。また、Circular Economy Hub 編集長(ハーチ株式会社運営)、一般社団法人日本サステナブルサロン協会理事なども務める。

第1回 サーキュラーエコノミーとオープンイノベーションの関係

那須:早速本題に入りたいと思います。オープンイノベーションを研究・推進する立場から、サーキュラーエコノミーとの相性をどのように考えていますか?

成富:サーキュラーエコノミーとオープンイノベーションの相性は非常に良いと考えています。その理由は大きく2つあります。

1つ目は、ゴール設定に対して共感の得やすさがあるのではないかと考えています。オープンイノベーションを推進する際、ゴールのイメージを設定することに重きをおいて時間を割きます。サーキュラーエコノミーにおいては、循環の実現という共通の目標なり土壌があり、当事者間のすり合わせがしやすそうだという気がしていますね。一般的には社内や当事者間でのゴール設定ができてないのにオープンイノベーションに走り出し、それが原因で失敗するケースが散見されることが多く、この領域ではその点をクリアしやすいのではないかと感じます。

2点目ですが、サーキュラーエコノミーにはモノの一生やサプライチェーンという視点がより強く、モノを起点に作り手や売り手が移り変わっているという構造があります。したがって、1社で価値の創出を、というよりは、複数の企業が手を取り合いながら価値創出を目指さなければならないという要素もあるのではないかと思います。社外との連携が必要になるという前提も重要なポイントではないでしょうか。

那須:オープンイノベーションの観点で見ても、サーキュラーエコノミーは必然と親和性が高いということですね。

挙げていただいた1点目ですが、サーキュラーエコノミーにかかわらず、自分たちが「何をやりたいのか」というビジョンや目的を明確にすることが相手と組む何よりの前提になりますよね。

最近企業全体のサーキュラーエコノミービジョンやKPI策定・評価を一緒に考えてほしいといった類のご相談をいただくことが多くなりました。技術部門、製造部門、マーケティング部門、事業企画、サステナビリティの各部門でそれぞれの「サーキュラーエコノミー」を追求してしまい、全体として調和が取れていないという類の問題です。全体の経営戦略にサーキュラーエコノミーが組み込まれておらず、各部署固有のテーマになっているために、目的や言語がバラバラだったり重要度や力感も違ったりしています。社内の人によって「自社のサーキュラーエコノミーとは?」が変わる状態といってもいいかもしれません。でも一方で、他社と連携する必要性を感じているという状態があります。こういう状態だと、相手にとってはその組織は「サーキュラーエコノミー実現に向けて何がしたいのか」が見えにくくなる。

ですので、オープンイノベーションありきではなく、他社と連携する時に、それを一つのきっかけにして、社内で原点に立ち返るというか、ビジョンなり目的なりを整理した上で、コラボに取り組んでいくことが、結果的にオープンイノベーションはうまくいのではないかと、今の成富さんのお話は腑に落ちました。

一般的にはどうでしょうか。今だとオープンイノベーションの必要性が盛んに叫ばれている時代なので、言葉などが先行してしまうという状況にあるのでしょうか。

成富:おっしゃるとおり、そういう状況は多いですね。たとえば、スタートアップに提案を求めるようなアクセラレータープログラム型を採用している企業の中でも、自社の目的や課題の設定をスタートアップ側に求めてしまうようなことなんかもありますね。本来は自社できちんとしたゴール設定をすべきです。スタートアップも当然リソースが潤沢にあるわけではないので、結果不幸な目にあってしまうという状況を我々も見てきました。

「自分たちは何をやりたいのか」が明確になってくると、社外との組み方は何パターンかありますよね。例えばA社とB社それぞれやりたいことがあって、 その中でお互いのやりたいことを満たせるこの部分だけプロジェクトを組みましょうという組み方もあるし、A社のやりたいことにB社を引き寄せてプロジェクトを作るというケースもありますし、 両社のやりたいことの発展形を作って別のさらに上位なビジョンなどをつくることもありますね。場合によってはジョイントベンチャーとして独立して組織を立ち上げていきましょうというケースなどもあります。 何しろやはり、「自分たちって何がやりたいんだっけ?」をきちんと整理することがすごく重要ですね。

那須:そうすると、最近大手企業だと、カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミー・ネイチャーポジティブという三本柱がマテリアリティとして位置付けられていますよね。そこに詳細な企業の目標やKPI等が紐づくと思いますが、こうした状況だと、その会社の今の目的としてサーキュラーエコノミーまたはそれによる炭素排出削減に取り組みたいという大きな方向性を持っていると思います。では、自社のサーキュラーエコノミーでできることは何なんだろうかと考えた時に、〇〇の部分が足りないので、そこをオープンイノベーションでこう補っていこうというような、オープンイノベーションの前段階の内部の目的設定はやりやすいところもあるのではないかと感じますね。

一般社団法人日本オープンイノベーション研究会 代表理事 成富 一仁さん

成富:私もそう思います。サーキュラ−エコノミーにおいては、自社ビジョンを実現するためにおそらく社外に何か専門性を求めていくことが日常的に行われているかと思います。自社にリソースがあるかどうか判別しやすい領域ともいえますよね。

那須:そうですね。たとえば、製造業とデジタル領域であったり、製造業や小売業とリサイクラーのコラボなどはわかりやすい例ですよね。明らかにそのリソースは社内にはないと判別がつきやすいということですよね。

成富:私たちがいつもお話していることなのですが、社外と連携することによって大きなビジョン実現の確度を高めることと並行してリスクやコストも抑える事ができると考えています。ある程度確保しなければならなかった研究開発予算を抑えて、実証からスタートできるとか、自社にはない領域のことを知っている別の企業と組むことによって、早期に潰しておかなければいけないリスクを見つけることができるとか、そういうメリットもあるのではないかと思ってます。 ビジョン実現のためにスピード感を持って進んでいきましょうっていう面と、どちらかというと守りと言ってもいいかもしれませんが、コストを抑えましょうという面と2つあるということですね。低コストで済むということは、会社からするともともと「1」しかやれなかった新規事業開発数を「5」などにさらに増やすこともできます。同じテーマでもやり方を5種類にパターン化して試してみるとか、そういうこともできる手法だと考えていますね。

第1回のまとめ

  1. サーキュラーエコノミーはビジョンに基づいた合意形成やすり合わせがしやすいのでは
  2. サーキュラーエコノミーにはモノのライフサイクルやサプライチェーン視点、システム観点があるためオープンイノベーションの必要性が高い分野
  3. オープンイノベーションの前段階として内部におけるビジョン共有が重要。サーキュラーエコノミーはそれがやりやすいのでは
  4. オープンイノベーションは目的達成に向け、近道になる場合とコスト削減につながる場合がある