「サーキュラーエコノミー移行には連携が重要」。サーキュラーエコノミーに携わる者であれば、一度は聞いたことのあるフレーズだ。システム全体を循環化しようとすれば、当然一社では完結できないことを示す。ときには「連携マインド」を醸成するためにこういった合言葉が使われる。しかし、「どんな連携なのか。その連携による社会・環境もしくは自社へのインパクトは」など、連携の高い解像度を持つことが、表層的な「連携や共創」に陥り失敗を防ぐ手立てともなる。

こうした問題意識から、循環経済つなぐラボは、オープンイノベーションの普及や研究・推進事業を展開している一般社団法人日本オープンイノベーション研究会(JOIRA)とサーキュラーエコノミーにおけるオープンイノベーションのあり方を研究している。

今回は共同研究の一環として、オープンイノベーション研究会代表理事の成富一仁さんと循環経済つなぐラボの那須清和による対談を行い、サーキュラーエコノミーを実現するためのオープンイノベーションについて模索した(全6回)。

第1回では、サーキュラーエコノミーとオープンイノベーションの関係について概観的に対話が進んだ。それを踏まえ、オープンイノベーションを成功させるためにどのような考え方や取り組みが有効なのか、考察を深めた。

オープンイノベーションを成功させるには

オープンイノベーションの土壌を社内に根付かせるためにどんな要素が必要なのか。先述の『実務者のためのオープンイノベーションガイドブック』は以下8つを特定している。

  1. 明確な課題設定と戦略的なターゲティング
  2. 経営層の支援と組織文化改革
  3. 最適なパートナー選定と関係構築
  4. インセンティブ設計と透明性
  5. スモールスタートと実験精神
  6. 内部プロセスと能力の整備
  7. 知財・契約マネジメント
  8. エコシステム志向

オープンイノベーションをサーキュラーエコノミー実現に向けてうまく活用するには何が必要なのか。

那須:最近は変わってきているとはいえ、日本の企業風土として自前主義がまだまだ色濃く残っているような印象があります。なかなかオープンイノベーションのメリットを身を持って実感されていないようにも感じるのですが、いかがでしょうか。

成富:やはりオープンイノベーションの土壌を作るのは骨の折れる作業だと思っています。その体制をつくる社内調整コストが大きいというのも進まない原因にもなっていますね。

那須:大手であればあるほどオープンイノベーション体制が整ってきていると思うのですが、実態としてはどうなんでしょう。もちろん企業ごとに進度・深度は違うとは思うのですが、日本企業全体として、そのような文化が形成されてきているのか、あるいはまだ形だけの段階なのか。

成富:そうですね、オープンイノベーションという概念が日本に本格的に導入されてからもう10年以上経ってるので、正直言うと明暗が分かれてきているのではないでしょうか。

那須:なるほど、成功している企業はどんなことをしているのでしょうか。

成富:たとえばKDDIさんは上手にオープンイノベーションを活用していまして、BtoC 領域で10年かけてオープンイノベーションの取り組みを進めていく中で、事業規模を1,000億程度から1兆円超えるぐらいの事業規模へと約10倍にしているんですよ。

スタートアップが選ぶ「イノベーティブ大企業ランキング」で8年連続1位を受賞するなど、「スタートアップファースト」の企業としても知られています。事業規模を拡大させることもそうですし、そこから派生して別の事業体もつくるなど、オープンイノベーションによる果実を確実に得られています。

イノベーティブ大企業ランキング2024:総合上位30位(表:イノベーションリーダーズサミット実行委員会(運営:株式会社プロジェクトニッポン))

那須:KDDIさんがオープンイノベーションをうまく活用できている要因としては、ご著書にも特定されていた8つの要素が根付いていることなのか、あるいは人的要素つまりキーパーソンが旗を振って強く推進する原動力になっているのか、いかがでしょうか。

成富:両方あると思っています。仕組みとしてもよくできていますね。 社外と連携するための投資をずっと続けていて、スタートアップと共創する物理的な拠点も整備されています。経営トップも積極的に発信し、オープンイノベーションや新規事業開発に力を入れていますし、投資や体制も整えている印象があります。

ですので、人的要因とそこに投資をする姿勢、そして連携を自社の収益に変換する能力などが揃っているのではないかと思いますね。

那須:探索から投資、自社の収益化まで一貫して流れを作り、それを支える人的リソースがあるというわけですね。

成富:また、「KDDI ∞ Labo」という事業共創プラットフォームを運営しています。スタートアップと大企業を結びつけるKDDI ∞ Laboはパートナー連合が100社超(現況111社)まで拡大し、課題提示とアセット提示を公開して共同検討に入ることのできる“開かれた入口”を作っています。さらに宇宙共創(UNIVERSE)や生成AI活用支援のようなテーマ型プログラムも走っていて、領域の広さと深さが同時に伸びている印象です。パートナー企業も建設・小売・運輸・製造業などあまねく業界の大企業が参加していて、プログラムを運営しています。もちろん大企業のアセットがあるからこそではありますが、スタートアップのやりたいことかつ自分たちにも課題だと特定し共創できる分野については一緒にやっていきましょうよ、というスタンスですね。課題提示とアセット提示を組み合わせ、自分たち(KDDI)のお客さんも参加していますよというプラットフォームになっていると思います。

こうしたプラットフォームはサーキュラーエコノミーの分野でもありますか?

那須:そうですね、企業単体でいうと、各企業のオープンイノベーションの探索テーマの一つにサーキュラーエコノミーが提示されていたり、あるいはカーボンニュートラルの枠内にサーキュラーエコノミーが入っていたり、ESG関連探索のテーマにサーキュラーエコノミーが特定されたり(例:三菱UFJ銀行)しています。リコーさんのTRIBUSように、プラスチック循環という特定領域がテーマとなっていることもあります。スタートアップ支援団体や自治体も同じです。

産官学や企業同士のアライアンスだと、経産省や環境省が主導するサーキュラーパートナーズ(CPs)や、一般社団法人エコシステム社会機構のサーキュラーエコノミータスクフォースが運営する新事業共創パートナーシップであるJ-CEPなどが相当します。自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアムや海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて多様な業界が参画するCLOMAなど、業界や素材に特化したイニシアチブもあり、サーキュラーエコノミーの性格上数多くの緩やかなアライアンスが生まれています。

サーキュラーエコノミーは、カーボンニュートラルに貢献すること、コスト削減につながること、新規事業の種になるもの、新たな顧客層にリーチできるもの、既存顧客との接点を増やせるものなど、いろんな角度からアプローチが可能で、これにはオープンイノベーションが大きな役割を担うのではないかと思います。ですが、サーキュラーエコノミーでは、オープンイノベーションによる新しい事業を起こしていく初期段階にまだまだあると思うので、このKDDIさんの座組はサーキュラーエコノミーにおけるオープンイノベーションを起こしていくためにとても参考になりそうですね。

第2回のまとめ

  1. オープンイノベーション成功には、その目的と投資姿勢、人的要因など複合的な要素がある
  2. オープンイノベーションを求める場合、ビジョンに加え、課題提示とアセット提示を組み合わせることで、明確なシグナルを送る
  3. 連携による新事業を起こしていく初期段階にある国内サーキュラーエコノミーではKDDIのようなプラットフォームも一つ参考になるのでは

これまでの記事

【第1回】サーキュラーエコノミーとオープンイノベーションの関係