「サーキュラーエコノミー移行には連携が重要」。サーキュラーエコノミーに携わる者であれば、一度は聞いたことのあるフレーズだ。システム全体を循環化しようとすれば、当然一社では完結できないことを示す。ときには「連携マインド」を醸成するためにこういった合言葉が使われる。しかし、「どんな連携なのか。その連携による社会・環境もしくは自社へのインパクトは」など、連携の高い解像度を持つことが、表層的な「連携や共創」に陥り失敗を防ぐ手立てともなる。
こうした問題意識から、循環経済つなぐラボは、オープンイノベーションの普及や研究・推進事業を展開している一般社団法人日本オープンイノベーション研究会(JOIRA)とサーキュラーエコノミーにおけるオープンイノベーションのあり方を研究している。
今回は共同研究の一環として、オープンイノベーション研究会代表理事の成富一仁さんと循環経済つなぐラボの那須清和による対談を行い、サーキュラーエコノミーを実現するためのオープンイノベーションについて模索した(全6回)。
第1回ではサーキュラーエコノミーとオープンイノベーションの関係について、第2回ではオープンイノベーションを成功させる要素について話が進んだ。第3回となる本記事では、サーキュラーエコノミー移行の鍵となる中小企業とオープンイノベーションの関係について考察する。
那須:これまで、大手とスタートアップが話題になりましたが、サーキュラーエコノミー実現のキーの一つは中小企業だと思います。中小企業におけるオープンイノベーションの機会とは何でしょうか。
成富:先ほど、オープンイノベーション推進要素としてビジョンを持つことが重要だと述べました(第1回に記載)が、特に中小企業やスタートアップが他社と組もうとするとき、ビジョンだけだと対等な関係になれないケースが多く、自社の持っている価値を適切に棚卸していないと、受発注の関係になりやすいんですよね。 一方、企業の「強み」が明確になっていることによって、外部からの見方がガラリと変わるというか、急に対等な関係になれるようなケースを見てきました。
那須:オープンイノベーションの関係と受発注の関係になるその分岐点はどこにあるのでしょうか。
成富: あるものづくり企業A社の実例を挙げてみたいと思います。A社は大手企業に納品するという、いわゆる通常の受発注の関係が続いていました。一方で、研究開発部門の技術力は強く、技術担当者が中心になって新規事業開発の組織を立ち上げました。新規事業部門は事業を起案して規模が大きくなれば事業部に移管するというケースが多いと思うのですが、彼らは開発だけにとどまらず販売まで一貫して提供できる事業開発の体制を整え、新規事業部門が事業をまとめて管轄するという仕組みにしています。
A社はその技術をもとに、提供先のCO2排出量を低くする新製品を大手企業のB社とともに開発しました。その製品はB社の環境関連の賞も受賞し、他社さんからも問い合わせを多く受けているような状況になっているそうなんですね。この製品を使うことで利用者側はCO2削減ができるそうです。こういったA社にしかできない技術やビジネスを持っていることによって、構造的に発注・下請けだった関係性から対等な関係へと移行することになり、他社から研究開発テーマとかもどんどん持ち込まれるようになって、連携の世界観が今までと違うようになったというお話をお聞きしました。
那須:なるほど、その事業を開発した背景が気になります。
成富:もともとの最大の収益源だった事業の需要がいよいよ減ってくるというときに、何かできないかということで、既存技術を現在の社会課題に合わせて活用することに着目されたわけですね。それが既存の取引関係からは生み出されなかった事業創出につながる一つのツールになったんだと思います。
那須:社会全体で重要だと認識されている課題を自社の強みと結びつけるという、一つの参考したい例になりそうですね。
成富:誤解を恐れずに言うと、中小企業にインタビューしていると、オープンイノベーションを合言葉にしながらも実際は「搾取され続けている」という印象を持っている企業も多いんですね。
A社の場合は、やはり強い技術がコアにあると、良い関係が築けるようになったということです。これがオープンイノベーションにもつながりますし、 だからこそ、ビジョンはあってもビジョンを実現するための強いピースのようなものが社内にないと不幸な結果を招いてしまうということなのかなと思っています。
那須:社会全体でCO2排出を減らす方向に動いているなか、大企業にもそのプレッシャーが強くなっています。そういうなかで中小企業がそこにつながりそうな技術とか種があればブラッシュアップして製品サービス・コンセプトを展開していくことは、大企業にとって魅力的に映る。そういう機会が多くなっていきそうですね。。世の中で重要とされている課題を解決できるような技術や眠っている特許が自社にあるんだろうかと、一回振り返ってみるというのもやはり重要な道筋となるのでしょうね。
サーキュラーエコノミーだと、サプライチェーンにおける自社の位置を改めて整理してみて、自社が何ができるか、自社のコア・コンピタンスで何か貢献できないかという点を改めて検討してみる価値がありますよね。サプライチェーンにおいて自社がいる位置の前後しか目が行ってなかったのが、製品の使用時やエンドオブライフに注目して、少し遠いプレイヤーの課題を洗い出して、何ができるか考え、連携してみる。サーキュラーエコノミー視点は新たなオープンイノベーションや事業機会を見出すきっかけをまさに与えてくれるのかもしれません。
第3回のまとめ
- 自社のコア・コンピテンスに磨きをかけることが、受発注の関係からオープンイノベーション関係に発展する要素となる
- 社会全体の課題と自社技術やサービスを結びつけてブラッシュアップしていく
- サーキュラーエコノミーにおいては、サプライチェーン全体を見渡し、自社の強みとかけ合わせることで、オープンイノベーションや事業機会を見出す
