循環経済つなぐラボでは、企業や自治体による先進的なサーキュラーエコノミー(CE)の実践を取材し、水平展開できる「循環知(=サーキュラーエコノミー移行に向けた概念知と実践知の総称)」として抽出し、社会全体のCE移行を加速させる基盤を構築している。各回、「インタビュー(第1部)」と、循環知として翻訳する「循環知翻訳編(第2部)」で構成されている。

今回は、「おやさいクレヨン」で知られるmizuiro株式会社の代表取締役、木村尚子氏を取材した。同製品は、米ぬかをアップサイクルした米油とライスワックスをベースに、規格外野菜や農産物の生産過程で出る端材を粉末加工して配合したプロダクトだ。万が一、口に入れても安全な材料のみを使用しており、野菜を活用したクレヨンとしては、世界でも例がないという。その独創性と安全性に加え、食育などの教育的価値も評価され、子育て世帯を中心に幅広い支持を集めている。

昨今、未利用資源や規格外野菜、端材・残渣のアップサイクルや食品ロス削減の取り組みが増えているが、同社はこうした言葉や取り組みが社会に広がる以前の2010年代初頭から活動をスタートさせている。いわばこの分野における先駆者的存在といえる木村氏に、創業ストーリーに加え、ビジョンや事業構築、おやさいクレヨンの価値など、多角的な観点から話を伺った。

第2部では、インタビュー(第1部)を受け、同社の実践を循環知へと翻訳すべく、4つのキーワードで整理した。

1. 「美しさ」が循環の基盤(アート思考が「隠れた循環基盤」)

木村氏が抱く美しさへの感性をもとに、自身が腑に落ちるまで形を追求し続けた結果、事業は自ずとCEの原則に合致する。

それは、素材選びの変遷にも現れている。「天然由来原料が理想的だと思っていましたが、その時点でできることを実践しながら、徐々に理想形に近づけていきました。試作段階では石油由来、それから蜜蝋、そして植物油へと原料を変えていきました。最終的に米油を活用することになりましたが、米と野菜の組み合わせになり、ストーリーとしても日本的だと思っています」と語る。理想を持ちながら少しずつ歩みを進めていった。

また、当初は通常の食用野菜を使用することを想定していたが、そこには一つの葛藤があったという。「わざわざ食べ物を文房具にすることについて、どこか腑に落ちないところがありました。そんな時、農家の方から規格外品の存在を教えていただいたのです。それをきっかけに調べていくと、膨大な量の廃棄野菜があることを知り、『もったいない』を活用するということが、自分の中で腑に落ちたんです」と振り返る。

「美しさ」という直感は、「正しさ」を伴うことになった。木村氏の話からは、当初からアップサイクル等のキーワードを意識していたわけではないことがわかる。しかし、生の野菜の色を「美しい」と真正面から捉えるアート思考的感性が、結果としてCEの体現へと向かわせたに違いない。この見落とされがちな「隠れた基盤」が、食べ物を文房具にすることへの違和感を「規格外品の活用」へと繋げ、理想形の追求を「バイオ由来原料(米油)」との出合いへと導いたのではないだろうか。このことから、哲学や感性、美学を磨くことが、CE移行にとって何よりものベースになることを再認識させられる。

2. 生物循環の実現(生物循環におけるカスケード利用と重層的出口)

おやさいクレヨンや、その知見を活かした新たなアップサイクルの取り組みは、生物循環の視点からも理にかなった循環方法だ。同時に、この循環の仕組みそのものがプロダクトの価値となっている。

その恩恵は、多方面に及ぶ。農家や食品工場にとっては、廃棄コストの削減のみならず、これまでは廃棄物だったものが新たな価値として生まれ変わる機会となった。また、製造を担うクレヨンメーカーにとっても、同社の技術を用いて未知のプロダクトを世に送り出した。

さらに、ユーザーが享受する価値は何重にも重なっている。「食育」や「食品ロス削減」への貢献、循環型製品を選択することによる「自己肯定感の向上」、そして何より「価値ある親子時間の創出」。これらが合わさって、おやさいクレヨンの独自性を形作っている。

しかし、こうした価値を社会に広く浸透させていくためには、より大規模な生物循環の実装が不可欠となる。そこで始まった新たな挑戦が、素材のアップサイクル事業だ。

例えば「りんご段ボール」プロジェクトが、その象徴といえる。原料の使用量が限られるクレヨン(小口)と、物量を必要とする段ボール(大口)という性質の異なる出口を組み合わせる。未利用資源や端材活用のアップサイクルにおいては、出口の質と量の創出がポイントとなるが、同社はそれを体現しようとしている。

製品に使用される野菜の粉末

3. コトの観点(ナラティブを通じた顧客との価値共創で、情緒的耐久性を育む)

「モノからコトへ」の重要性は語り尽くされた感はあるが、おやさいクレヨンはまさにこれを意図的に体現したプロダクトである。

製品としての循環性の高さはもちろんだが、おやさいクレヨンの価値は、使い手の体験をコト化している点にある。具体的には「親子で使っているシーン」や「記憶が受け継がれ、次世代がまた使う」といった物語そのものを指す。おやさいクレヨンは、貴重な親子時間を彩るための一つの道具として存在しているという観点だ。言い換えれば、おやさいクレヨンというナラティブにより顧客と価値を共創している。

こうした親子での「やさしい時間」は、ユーザーとモノの結びつきを強め、愛着によってモノの寿命を延ばす情緒的耐久性を高めていく。その結果、ブランドの思想がユーザーへと移転し、次世代の「当たり前」を創っていくことになる。

これを表出させる手段が、木村氏が語ったネーミングやパッケージである。循環型製品が持つ複合的な価値をどう可視化し、意味づけするか。その表現方法が循環型ブランディングにとっては重要であるという気付きを与えてくれる。

4. 新たな価値観の創出(制約による創造性・リフレーミングによる新しい価値創造)

「青がない」という事実を、「想像力で補う」というポジティブな価値観へと再定義。これまでと異なる配色という新たな価値観を打ち出した。想像力で補うには、ユーザーの感性が必要だ。青がないことはユーザーの主体性や個性を引き出す、つまり能動的な参加者へと変容させる要素を持つのではないだろうか。

CE移行においては、何かしら旧来の価値観を打破する場面が出てこよう。たとえば「経年劣化=価値劣化」ではなく「価値付加」と捉え直すようなリフレーミングや、それに伴う行動変容などである。

おやさいクレヨンの「青がない」という事実を、マイナスに捉えるのではなく、どう新たな価値観をつくりだしていくことに結びつけるか、こうしたリフレーミングを通じた打ち出し方が重要であることがわかる。

まとめ:完成から仕組み、そして記憶へ

木村氏の歩みは、「美しい」と感じる心から始まり、それを支える「仕組み」をつくり、使い手の「記憶」へと繋いでいく。この流れは、ぬくもりを伴いつつインパクトも創出するサーキュラーエコノミーの姿として私たちに多くの示唆を与えてくれる。

【mizuiro株式会社公式ウェブサイト】https://mizuiroinc.com/

※写真:記載がない限り循環経済つなぐラボ(サークルデザイン株式会社)撮影。冒頭の画像は、同社の商品「食育にもつながる みつけてぬりえ新聞」(写真:mizuiro株式会社)

第1部(下記リンク先):【循環知ライブラリ】感性から始まるサーキュラーエコノミー ― おやさいクレヨン(mizuiro株式会社)[第1部:インタビュー編]