サークルデザイン株式会社は2024年1月〜3月、全5回にわたるサーキュラーエコノミーの基本から実践・現場視察まで行うプログラム「環境・ウェルビーイング・経済の未来を導くサーキュラーエコノミーへ」を開催、のべ145名の方にご参加いただきました。本記事(後編)では第1-3回の概要をご紹介します。

プログラムのねらいと概要

本プログラムを開催した背景には、サーキュラーエコノミーが産官学挙げて推進されるようになった一方で、ネットゼロ領域と違い、多種多様な要素やレイヤーが入るサーキュラーエコノミーの根本的理解がますます重要となっていることがあります。さらに、製品だけではなくビジネスモデル、ステークホルダー、社会システムの変革まで見据えたアプローチが必要です。

※ねらいの詳細については、こちらの下部に掲載されている「本プログラム実施の背景」をご覧ください。

本プログラムでは、最終到達ゴールを「納得感を持って自組織でのサーキュラーエコノミー実践に向けて準備ができている状態」と設定。まず、サーキュラーエコノミーに取り組む理由を個人レベルで腹落ちさせ、幹を太くすることからスタート。その後プログラムは、サーキュラーエコノミーの基礎を深く徹底的に学び、国際標準化(ISO59000シリーズ)の解説や実践者からの共有を経て、再資源化プラント・里山視察、循環型ビジネス構築に向けた実践型ワークショップで締めくくりました。本レポートでは、各回の概要をご紹介します。

各回の位置づけを木に例えた図

各回の概要

第1回:私とサーキュラーエコノミーと世界(ニールセン 北村朋子氏 文化翻訳家/Cultural Translator)

ニールセン北村朋子氏講義の様子

第1回は「何のためにサーキュラーエコノミーに取り組む必要があるのか」という「根っこの部分」を見つめる回。デンマーク・ロラン島在住のニールセン北村朋子氏とともに学びました。サーキュラーエコノミーのWHYの部分は、組織人として理解しているかもしれませんが、一個人としての「自分」が納得した状態であればあるほど、サーキュラーエコノミーへの進捗は加速する。そんな仮説や背景があり、第1回は開催されました。

第1部は、「あなたにとってのサーキュラーエコノミーとは?」と題して、デンマークのサステナビリティに対する見方や取り組みを紐解きながら、サーキュラーエコノミーに取り組む理由について考えました。ニールセン氏によると、デンマークは「そもそも」を考えることが得意な国です。「そもそも教育とは?」「そもそも食とは?」、こういった従来続いてきたものや慣習を疑ってみることで、たとえばフォルケホイスコーレやニュー・ノルディック・クイジーヌ・マニフェストが生まれてきました。当たり前と思っていた前提を疑い捉え直すことで各分野で再構築が起きる。そんなことを示唆してくれています。

科学的知見を改めて認識することも重要です。講義では、たとえば、熱帯エリアの拡大が急速に進み、過去30年間で緯度にすると10度広がっているとされるデータや気候変動により海洋大循環に変化が起きているという研究結果などが紹介されました。なぜ私たちは気候変動対策やサーキュラーエコノミーの取り組みを進める必要があるのかという点について、こういったデータを正しく認識して取り組む理由を腹落ちさせる必要があるのではないか、ニールセンさんは強調します。

第2部は、「今から未来に向けてつくっていきたい社会とは?」というテーマで、未来思考で社会デザインをしていく必要性を確認しました。ニールセンさんは、自分たちが住みたい世界はどのようなものかを考えることが必要だと話します。デンマークでは、「自分は本当はどうしたい」「どうしてだろう」と考える習慣があります。その理由として、教育に「批判的分析」の考え方が浸透していることが挙げられます。先にも述べましたが、これまでやってきたことが必ずしも正しいということではないという認識のもと、先生も生徒から学ぶということが当たり前になっているのです。これまでの「変なルールや習慣」を疑ってみて、ありたい未来に向けて、それらを変えてみるということもサーキュラーエコノミー確立に向けたシステミックチェンジを果たすうえで大切な視点となります。その際に避けて通れないのは自分を見つめ直すこと。具体的には、自分の人生で何を全うしたいのかという「Will」を考える。こういった「緊急ではないが重要なこと」に思い巡らせてみることは、サーキュラーエコノミーを進捗させる原動力となるのではないでしょうか。

講義の後は、きづきくみたて工房代表の森本 康仁 氏によるファシリテートのもと、デンマークの事例を参考にしながらサーキュラーエコノミーをどう自分ごと化していくかという観点で質疑応答やディスカッションが行われました。

第2回:サーキュラーエコノミー概論(那須清和 サークルデザイン株式会社代表)

那須清和講義の様子

第2回は、弊社代表の那須より「サーキュラーエコノミーの概論」というテーマのもと、サーキュラーエコノミーの概念や取り組み事例、ビジネスモデル構築に向けた考え方などをご紹介しました。「概論」というテーマ名ではありますが、表面的な内容にとどまらず、系譜や最新の国際動向、今後の課題を踏まえた多角的な観点から解説。

概念としてのサーキュラーエコノミーが形成されてきた系譜や定義の多様性などを時系列で確認し、それが実践の世界でどのように発展してきているのか、EUと日本の政策や地域づくり、ビジネス形成の観点から見ていきました。サーキュラーエコノミーは、いわゆる「モノの循環」のみならず、モノが適切に配分・循環していくための「システム」を再構築する一つのツールだという認識を共有しました。

そういった観点から、「循環型経済」と「循環型社会」の違いの確認、サーキュラーエコノミーがカーボンニュートラルやネイチャーポジティブとどう関連するかというら、具体的なビジネスモデルや事例、ビジネス構築に向けた考え方などを一緒に学んだ回となりました。本回については、こちらでアーカイブを販売しております。

第3回:国際標準化(ISO/TC323、ISO59000シリーズ)から学ぶサーキュラーエコノミー(市川 芳明 氏(多摩大学ルール形成戦略研究所 工学博士,客員教授、ISO/TC323/WG2 WG国際座長)

市川芳明氏講義の様子

第3回は、「国際標準化(ISO/TC323、ISO59000シリーズ)から学ぶサーキュラーエコノミー」。サーキュラーエコノミーの国際標準化からサーキュラーエコノミーを理解する回です。本レポート公開時点の2024年6月19日では、ISO59004, ISO59010, ISO59020が発行されました)

ISO TC 323(サーキュラーエコノミー)WG2国際座長を務める市川芳明先生をお招きし、規格の解説はさることながら、それ以上に重要でもある「規格を通じたサーキュラーエコノミーの理解」と「自社ビジネスにどのような影響を与えるのか」についても議論しました。

前半では、サーキュラーエコノミーに関わる重要団体の紹介から始まり、国際標準化への動きが起こった背景や重要関係者、規格の概要が解説されました。ISO59004におけるサーキュラーエコノミーの定義は、バリューネットワーク全体にアプローチするシステミックアプローチが色濃く出ていると同時に、モノの量や重さではなく「価値」に重きが置かれていることが特徴だと市川氏は説明します。

後半では、国際標準策定の背景にある欧州の法体系、エコデザイン規則や電池規則などサーキュラーエコノミー関連法などについて解説。ルール形成とビジネスモデル形成の両面を見据え、国際標準化が促進するビジネスエコシステムの構築や市場を形成する方法が共有されました。さらに、市川氏は、サーキュラーエコノミーを進めることによる恩恵が受けられるような仕組みづくりの必要性を訴えました。

その後、参加者からの質疑応答により、ISO59000シリーズをどう活かすかについて議論が交わされました。(後編に続く)

参考記事