「サーキュラーエコノミー移行には連携が重要」。サーキュラーエコノミーに携わる者であれば、一度は聞いたことのあるフレーズだ。システム全体を循環化しようとすれば、当然一社では完結できないことを示す。ときには「連携マインド」を醸成するためにこういった合言葉が使われる。しかし、「どんな連携なのか。その連携による社会・環境もしくは自社へのインパクトは」など、連携の高い解像度を持つことが、表層的な「連携や共創」に陥り失敗を防ぐ手立てともなる。
こうした問題意識から、循環経済つなぐラボは、オープンイノベーションの普及や研究・推進事業を展開している一般社団法人日本オープンイノベーション研究会(JOIRA)とサーキュラーエコノミーにおけるオープンイノベーションのあり方を研究している。
今回は共同研究の一環として、オープンイノベーション研究会代表理事の成富一仁さんと循環経済つなぐラボの那須清和による対談を行い、サーキュラーエコノミーを実現するためのオープンイノベーションについて模索した(全6回)。
第1回ではサーキュラーエコノミーとオープンイノベーションの関係について、第2回ではオープンイノベーションを成功させる要素について、第3回では中小企業とオープンイノベーションの関係、第4回では、エコシステム構築について対話を進めた。
成富:エコシステムという話をしましたが、そのエコシステムに投資をするという観点も重要だということで、今サーキュラーエコノミーの投資動向はどうなっていますか?
那須:サーキュラーエコノミーへの投資状況を分析したCircularity Gap Report Financeというレポートによれば、世界的にいうと、2021–2023年の3年間は2018–2020年に比べて投資額が87%増加し急激に投資額は増加していますが、このレポートが対象とした資本フローのうち2%程度で、わずかとなっています(出典:Circularity Gap Report Finance)。国内でも、たとえば東京都による100億円規模の循環経済・自然資本等推進ファンドや、野村アセットマネジメントやみずほFGのアセットマネジメントOneのサーキュラーエコノミーに特化したファンド、この分野に着目するVCが登場してきているなどの動きはありますが、日本ではサーキュラーエコノミーに特化したVCやファンドは限定的で、「脱炭素」や「カーボンニュートラル」「グリーン」における資金の流れにサーキュラーエコノミーが位置づけられているケースが多いですね。ただ、何をサーキュラーエコノミーに加えるかという問題もありますが、おそらくカーボンニュートラル資金の流れにサーキュラーエコノミーを位置づけていくことが現時点では現実的で、投資を拡大させることにつながるのではと思っています。
成富:そういうサーキュラーエコノミー投資の拡大傾向があるなかで、大企業としての動きはどうでしょうか。
那須:大企業もマテリアリティにカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー、最近だとネイチャーポジティブが特定されるケースが多く、そのなかでサーキュラーエコノミーが取り組まれている傾向がありますね。
企業がサーキュラーエコノミーをどう捉えているかは、各企業が立てたビジョンや戦略、KPI、取り組みの方向性等から伺うこともできます。たとえば、廃棄物量を減らしていくKPIをサーキュラーとして位置づけている企業や、新たなサーキュラー「ビジネス」に活かしていくことがわかるKPIを設定している企業など、様々なスタンスの違いを感じることもあります。最近では、リコーさんは環境配慮型複合機の売上高目標を立てていたり、パナソニックさんはサーキュラーエコノミー型事業創出数を掲げていたりと、「エコノミー」の部分に相当する事業価値創出に結びつけている目標も増えてきていますね。大手企業側でのそうした位置づけが増えると、オープンイノベーションの機会も増えていくのではないでしょうか。
中間支援組織の重要性
那須:投資家や大企業側のことについて触れましたが、サーキュラーエコノミーを支援する自治体や支援企業などいわゆる中間支援組織も重要な役割を担っていると思います。
今自治体などでサーキュラーエコノミーに関連する予算がつくことが増え、補助金や実証実験支援、スタートアップ支援などが行われています。私も一部関わらせていただくなかで感じるのが、まず活用・申請側のリソース不足のためまだまだ上手く活用されていないと感じることが多くあります。
それぞれの企業課題にアプローチできる支援をより充実できると、さらに市場は発展するとも感じています。たとえば技術スタートアップだとビジネス要素に課題がある、逆だと循環性の担保ができるかどうか掘り下げが必要など、それぞれ課題があると思います。そうしたなかで、その点含めて支援できるような中間支援組織の存在も重要ではないかと思います。サーキュラーエコノミーに限った話ではないと思いますが。
成富:そう思いますね。これに関して2つのことを感じています。1つ目ですが、例えば、行政で適切な施策があっても知られてないケースが多く、その施策を受託して担うような支援組織がそれを伝えていくなどの役割が求められていると思います。2つ目は、サーキュラーエコノミーに貢献する事業があって、自社の事業がサーキュラーエコノミーに含まれると認識されていないこともあるのではないかと感じます。それも含めて伝えていくことが我々の役割でもありますね。
那須:なるほど、その課題も我々ができることとして重要ですね。例えば生産性向上に寄与する技術やシステムなどを持っている時に、生産性向上とともに実は炭素排出や使用する資源量の削減にも貢献していく要素があると思うのですが、そこに焦点を当てていなかったということなどですね。 CO2を減らせるんだというのを指摘されて改めて価値として認識されることもあると思います。サーキュラーエコノミーの価値があるのではないかと支援側から話をしていくことが、別の側面から企業価値が生まれるかもしれません。
それと関連して最近改めて感じるのは、こうした中間支援組織は3Rとサーキュラーエコノミーの違いを認識しておく必要があるのではないかという点です。サーキュラーエコノミーは言葉では理解できているものの、政策の力点としてはまだまだリサイクルに重点が置かれていると感じています。サーキュラーエコノミーはいい意味でも悪い意味でも、人による定義が揃っていないことが多く、少なくとも政策立案側含めた支援側はサーキュラーエコノミーの理解を深めておくことが重要ではないかと思います。
第5回のまとめ
- カーボンニュートラル文脈やESG文脈でサーキュラーエコノミーを位置づけている投資家や支援団体は多い。これらの文脈でサーキュラーエコノミーを位置づけることが現実的なのかもしれない
- サーキュラーエコノミーを廃棄物管理の延長と捉えるか、新たな価値の源泉として捉えるか、KPIからその企業のサーキュラーエコノミーが見えてくることが多い
- 支援側はサーキュラーエコノミーを適切に認識し、企業側の新たな価値が生まれるような気付きを与えることも重要な役割
- 支援側のサーキュラーエコノミーの理解を深めておくことがサーキュラーエコノミー移行に向けて重要
